今オレが住んでいるマンションのエレベータは、なぜかいつも2階でいったん扉が開くのだった。昇りの時も下りの時もそうだ。ただ、だれかが乗り合わせている時は起こらず、オレひとりの時に限ってそうなるのだ。急いでいる時などには、かなりイライラしてしまう。
「急いでるんだよ、早く閉まれ」と言いながら、「閉」のボタンを連打してみるのだが、たっぷりと30秒以上はそのままだ。まるで、誰かが乗り込むのを待っているように。
その日も、朝、ぎりぎりで部屋を飛び出した。エレベータが、やけにゆっくりと動いているように思える。下降するエレベータは、いつものごとく2階で停止したが、どうせ誰も乗り込んでこないのだろうと「閉」のボタンに手をかけて待っていたら、ちがっていた。白いワンピースを着た細面の美人が、ゆっくりとした動作で乗り込んできたのだ。「こんな美人、住んでいたっけ?」と思いはするが、もちろん住人すべてを把握しているわけではない。
1階に着くと、くだんの美人は「開」ボタンを押さえて、お先にどうぞという素振り。急いでいたので、遠慮なく先に降りさせてもらう。まったく我ながら紳士的とは言えないな、と思いながら。すると、背中から、はなやかな感じの声が追いかけてきた。「今日はボタンを何度も押さなかったのね」と。振り返ると、扉はすーっと閉まるところ。かの美人は降りてこなかったのだ。
それからだ。エレベータが2階で停止すると、オレは「開」ボタンを押して、しばらく経ってから扉を閉じることにしている。たとえ見えないにせよ、ほんのしばらくの間、美人とふたりきりでいるのだと思えば、悪い気はしないではないか。
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