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2008年10月の36件の投稿

2008/10/26

『新耳袋 第十夜』 (木原 浩勝 中山 市朗) 感想

『新耳袋』の最終巻。"件"に関する最後の報告を経て、第九十話から始まる怒涛の最終章。そして驚愕の最終話ラストシーン。思わず、何が起こってもかまうものかと第一夜から通して再読いたしました。この九百九十話、あるいは千話の怪談の背景にある、取材されたけれども収録に至らなかった、あるいはあえて収録しなかった話や、収録されても部分的に割愛された話などを想う時、妄想はとめどなくふくらんでいきます。
しかし、いかに取材を重ねたにせよ、このように怪異が集められるということが、もはや怪異の側から望まれているのではないかとさえ思えてしまいます。そのことこそが、「怪を語れば怪に至る」こことの証明であるのかもしれません。(2008/07)

『背信』 (ロバート・B・パーカー) 感想

スペンサー・シリーズ第31作。スペンサーが専門外の事件に挑む異色作とある。たしかに表向きの事件は企業内の不正に関するものなんだけど、専門外って何だ?スペンサーの専門って探偵なのだから、そこがどのような場所であれ殺人事件が起きれば解決するのが専門なんじゃないの?まあ、スペンサーものにはあんまり出てこないタイプの事件であることは確かだけれど、でもけっきょくあの結末なんだったら、異色作だとは思えんのだがなあ。
「私はクラブの会長の職を得ているの」というのが今回のスーザンの台詞にある。ホークの行動に関して事件関係者に問われたときに、スペンサーたちの誰かがそうであると言うのならばその通り、という意味の会話をしたあとのことである。クラブとはスペンサーの協力者たちすべてを指す。彼女は理屈からではなく、自身の体験からそれを学んだ。そしてその感情にもはや揺らぎは微塵もない。これが、あの不安定だったスーザンなのかと思うとちょっと感慨深いものがある。安心して読める反面、もうちょっと波風がたってくれると面白いのだがと思ってしまうのは不謹慎であろうかな。(2008/07)

『恋いちもんめ』 (宇江佐真理) 感想

水茶屋の娘お初の前に、青物屋の息子栄蔵が見合の相手として現れる。次第に栄蔵に魅かれていくお初だったが……。見合いの相手が初恋で、その恋を成し遂げようとするとお定まりの邪魔が入る。恋敵、相手の親、その他もろもろ。そして、物語の中盤で事態は急展開することに。意地悪な言い方をすれば、この急展開がなければ、ふたりはどうなっていたのだろう?障害が多いほど恋はなんとやらと言いますが、その典型かな。舞台が江戸であるということで、その制限は現代を描く恋愛小説よりも、ふたりの恋路を急がせるのであろうな。このラストシーンのあとどうなるのかを読んでみたいようなみたくないような。(2008/06)

『グイン・サーガ121 サイロンの光と影』 (栗本薫) 感想

豹頭王サイロンに帰還!前半はいたって祝賀ムードです。これが"光"ですね。では"影"はといえば、やはりシルヴィアか……。後半はなんというか、陰惨だな。しかも、その陰惨さが、妖魔とか魔道師とかが一切からんでいないというのが、救いようがないところ。いや、からんでいないとも言えないのか。原因はあれなんだろうからな。原因が何であれ、一国の王妃たるもの心を強く持てというのも酷か。ましてやシルヴィアだし。ある意味、グインとべったりいっしょにいれたら、こんなことにはならなかったんだろうと思うと、あわれではある。(2008/06)

『殺意のコイン』 (ロバート・B・パーカー) 感想

サニー・ランドル・シリーズ第6作。死体の傍らに三枚のコインを置いていく"物乞いキラー"なる連続殺人犯を巡り、サニーは父のフィル・ランドルの捜査の手助けをすることになる。やがてサニーはひとりの男を容疑者と見定めるが……。
ジェッシイとは別れてしまったのだね。これは未読の『秘められた貌』でのエピソードになるのか。元夫のリッチーとは今回は落ち着いた感じ。他にも様々な人間関係が錯綜しているが、興味深いのはサニーの姉のエリザベスがフィアンセを家に連れてくる場面。「それはわたしにどのような影響を与えているのだろう?どこまで耐えれば、席を蹴って帰っても許されるのだろう?」やはり、許されないといけないのだろうかな?同じ場面に居合わせるフィルがどのように考えているのかがまことに興味深い。愛情というのは、一筋縄ではいかないものだと考え込んでしまいますよね。ただ、フィルは"あばたもえくぼ"なのではなくて、かなり冷静なのだと思うのだけれど、そのあたりが理解できない。いや、理解する必要はないことなのか……。(2008/06)

『葉桜の季節に君を想うということ』 (歌野昌午) 感想

2004年のこのミス1位作品。元私立探偵の成瀬将虎は、線路に飛び込んで自殺しようとした麻宮さくらを救う。そして、同じフィットネスクラブに通う久高愛子から、悪質な霊感商法を行っている蓬莱倶楽部の調査を依頼されるのだが……。
本格ものでこういう書き方だということは叙述トリックなのだろうと思って、そういうつもりで読んだのだが、やっぱりあっさりと騙されてしまうわけで、そういう意味ではやっぱりミステリ作家ってすごいなあ、と素直に感嘆してしまう。しかしながら、読了した時に感じる、このなんとも言えない居心地の悪さはいったい何なんだろう?この類のトリックにはいつもあっさりやられることになるのだが、そういう時は爽快感があるのだがね。テーマが重いからか?トリックが判っても再読に耐えるという、じつに好みの本ながら、すぐには再読できないという矛盾した気持ちをかかえてしまったのだ。「最後の一文に至るまで、あなたはただひたすら驚き続けることになるでしょう」と文庫の帯にあるけれど、初読で感じたのはむしろある種の気持ち悪さ。そして再読時には謳い文句の通り。ただ、驚いてばかりもいられないんじゃなかろうかねえ……とは思うのだよ。(2008/06)

2008/10/25

『月光魔術團2 ウルフガイDNA2 湘南海岸の乱』(平井和正) 感想

う……先月刊です。買うの忘れてました。というか、どうしてヤングアダルトの刊行物ってあんなに書店で不当に差別されているのだ?一般書籍の文庫新書とはいっしょに置いてないところが多いし、コミックの棚にあってもまま子扱い……新刊が出たことさえパッと見にわからないのは問題ありだぞ。やはりデジタルで買うほうがよいのかな?
とにかく、物語のほうはあいかわらずの調子ですねえ。あいかわらず、犬神メイ復帰は遠いよう……と思っていたら、わはははは、なんなんだこの展開は?なんだかハチャメチャさでは『超革命的中学生集団』をしのいでないか……と書いてからふと思ったけれど、そういえば『超革中』も主人公のヨコジュンが……。いったい『ウルフガイ』はどこに行こうとしてるんだろう?(1999/09/26)

※追記 『超革命的中学生集団』って、青い鳥fシリーズで『超人騎士団リーパーズ』って題名でリライトされているのだよね。書店にはラノベがひしめいているし。時代は変わったなあ、と思う。(2008/10/25)

『逆説の日本史7 中世王権編-太平記と南北朝の謎』 (井沢元彦) 感想

井沢氏の説がすべて正しいかどうかはともかくとして、『逆説の日本史』を読んでいつも思うことは、もっと疑問を持たないとだめだなあ、ということである。なにしろ、日本史というやつはけっこうくせものでしょう?基本的なところは小学校高学年の頃から勉強してきているわけで、そうすると見過ごしたまま思いこんでいることって案外多いのではないだろうかなあ?
例えば、今巻の山場は「天皇になろうとした将軍」足利義満のところだと思っていたら、それ以上に考え込んでしまったのが「恐怖の魔王」足利義教……。義満についてはけっこう詳細に学校でも教えていた記憶があるんだけど、その上辺が同じでもモチベーションがこれだけ異なると面白いよなあ、という感想。でも、義教については、そういえばそんな名前も出てきたかなあ程度にしかおぼえてないわけで、その人物がこんなに歴史上重要なんだよとやられると、今まで自分が受けてきた教育そのものを疑ってしまう……。なにしろ「魔王」だもんなあ。このキーワードでピンとくる人間がきっと少ないんだろうということこそ、教育が日本史嫌いを増やしているんじゃないの?とか思ってしまうんだけど、いかが?(1999/09/26)

『大修院長ジュスティーヌ』(藤本ひとみ) 感想

正義などというものは時代の要請によってその姿を変えるものだ。絶対的な価値観などというものはおそらくないのであろう。性的な快楽を是とする異端の女子修道会と謹厳なベネディクト会の聴聞僧のあいだで揺れる少年見習僧を描く表題作の結末は、そういう気持ちでこの作品を読んでいたぼくを赤面させるにじゅうぶんなものでありました。そうですね、これだけはいつの世にも変化することない価値であってほしいものです。どうも本ばかり読んでいると物を見る目が皮肉になりすぎるらしい。同時収録は「侯爵夫人ドニッサン」と「娼婦ティティーヌ」ですが、やはりインパクトは表題作がいちばん強かったです。(1999/09/19)

『盤上の敵』 (北村薫) 感想

いつもあたたかなムードの作品が多い北村薫らしからぬ、というところはやはり書いておかなければいけないのかな?らしからぬからどう、というのは作品の感想を述べるにあたってはあんまり重要な要素ではないと思うんだけど。それよりも、ぼくとしてはチェスというテーマを生かしきれてないようでそこが気になる。目次を一見して思ったのは妙な章題のつけかただなあ、ということ。黒のクイーンはどうしたの?と思ってしまったのだ。そう、思わせちゃいけなかったんじゃないだろうか?
それと、ご存知のようにチェスにおける最強の駒はクイーンですよね。とうぜん、ふつうに書くならばキングを守ってクイーンが戦う物語なのかと……。主人公が白のキングで猟銃の男が黒のキング……、うーん。あと、ぼくの記憶ちがいでなければチェスでは白が先手と決まっていたのではないかとか……。なんだか、そんなことばかり考えていて、すなおに楽しめてないのかもしれないなあ。(1999/09/19)

『グイン・サーガ外伝16 蜃気楼の少女』(栗本薫) 感想

時間軸的には外伝の15巻『ホータン最後の戦い』と正伝67巻『風の挽歌』のあいだにあたる物語。シルヴィアを救出したグイン一行がノスフェラスを越えてケス河のあたりまで到達するまでですね。この作品中では古のカナン帝国の滅亡の様子がつぶさに語られます。もちろん、これはノスフェラスの由来とも密接に結びついているわけです。グイン・サーガ最大の謎のひとつも、これで輪郭だけは明らかになりました。
興味深いのは、やはりノスフェラスにてグインがセム族、ラゴン族と再会を果たすくだりでしょう。あと、物語の構成上今回はシルヴィアがあまり前面には出てこないのですが、ほんの1行だけですが彼女の本音がかいま見えます。この不幸な少女の運命が今後どのように展開していくのかとても気にかかります。(1999/09/11)

『人形式モナリザ Shape of Things Human』(森博嗣) 感想

新シリーズの二編目。シリーズの名前はなんというのだろうなどとどうでもよいことが気にかかる。中心になる人物はやはり瀬在丸紅子なのですね。いまひとつはっきりとしない人間関係がどうにもひっかかるのですが……。紅子のもと夫である林の立場とか、ほとんど登場しないふたりの息子とか、得体の知れない探偵保呂草とか・・・・・・。シリーズの都合上しかたないとか、さらに作者の深謀遠慮があるとか?
物語としては、やはり人形がテーマに選ばれているところが面白いです。ただ、せっかくモナリザを題名にしているのだから、なぜモナリザなのかというところにもっと突っ込んでいただければ更に楽しめたかかと。殺人事件とモナリザさがしに謎を分散させただけ印象が希薄な感じになったのでしょうか?好みの問題なのかもしれませんが、ぼくとしてはモナリザにもっとウエイトを置いていただきたかったな、と。
あと、ラストの一行はそんなに衝撃の真実なんでしょうか?ぼくにはとても得心のいった言葉だったのですが。(1999/09/11)

『巷説百物語』 (京極夏彦) 感想

季刊『怪』に掲載されていた連作短編をまとめたもの。小股潜りの又市をどうやら中心に動いているらしい、この連作に登場する組織がいかなるものなのか、どうにもはっきりはしないが、<必殺仕事人>のようなものなのか?表立っては裁きようのない者を仕掛けを通じて「御行奉為(おんぎょうしたてまつる)」わけだけれど、その仕掛けに小豆洗いとか白蔵主とか妖怪がからんでいるところが京極夏彦的なのですね。
話としては、情をかけられた狸が人間の形に変化して礼に訪れるといったことを仕掛けに用いた「芝右衛門狸」が面白いです。狸の仕掛けと悪人退治の結び付け方が奇抜なのですよね。
それとやはり末尾を飾る「帷子辻」が何とも怖い。このテーマは古来よく怪談にとりあげられていますが、ここまで徹底しているのはちょっとないのでは?最後の一行の又市の台詞がなんともいえません。ちなみに、この編でとりあげられている九相詩絵巻は、作中でのものとはちょっと展開のさせかたがちがうようですが、本(※ハードカバー版)のカバーの裏側に入れられています。
余談ですが、帯にある「京極世界、初の映像化」ってのは間違いですよね?ご承知の通り「目目連」という短編がすでに<幻想ミッドナイト>というシリーズのひとつとしてTVドラマ化されています。(1999/09/11)

『剣客商売9 待ち伏せ』(池波正太郎) 感想

大治郎との結婚後、三冬の表立っての活躍が減ってきたように思っている。で、ここにきてご懐妊なのですね。ううむ、めでたいのだけれど、これでますます活躍が減って補助的な役割になっていくのでしょうか?そうだとちょっとさびしいですね。
大治郎が剣客としてのひとつの自覚を得るに至り、また三冬に子供ができたことを知るターニングポイントとも言える一編「待ち伏せ」、小兵衛の過去の一端に触れる「或る日の小兵衛」、ほかに興味深いのは剣客の剣客であるがゆえの執念と哀しさを浮き彫りにした「剣の命脈」(1999/09/11)

『ターザン』 (エドガー・ライス・バロウズ) 感想

なんでもディズニー映画になるそうで、新訳が出たわけです。この遠大なシリーズの最初の話は昔々、少年少女向けの抄訳で読んだだけでしたので、購入してみました。たしか、創元推理での旧邦訳名は「類人猿の王ターザン」ではなかったでしょうか……?
バロウズといえばSF読みにとってはあの「火星シリーズ」や「地底シリーズ」の作者であり、ぼくにとってのなじみは当然こちらになります。「地底世界ペルシダー」にはターザンも出演しておりますしね。
あらすじについては説明する必要もないでしょうが、アフリカのジャングルに取り残され類人猿に育てられたターザン(類人猿の言葉で<白い膚>の意味)が成長し、ジャングルの王となり、そしてジェーンと出会って文明世界に復帰しという……。とにかく、このターザン第一作は手に汗握る、ほんとうに魅力的な冒険譚です。
物語の後半からは人間であることと野生を求めることとのギャップに悩む姿が描かれています。そういえばかつてはターザン映画といえば冒険物と相場が決まっていたのですが、このギャップの部分に焦点をあてた「グレイストーク」という映画もありましたね。秀作でした。ちなみに、グレイストークはターザンの本名です。ディズニーはどこまでこのテーマに踏みこんでくれるでしょう?興味あるところです。
余談をひとつ。この作品の解説を読んで初めて知ったのですが、ハリウッド映画「ターザン」に出てくるボーイって、ターザンとジェーンの息子じゃなかったのですね……。(1999.09.10)

『ななつのこ』(加納朋子) 感想

書店でふと心魅かれた一冊の本「ななつのこ」を読んだ駒子は、その作者にファンレターを書く。作品の感想とともに身近で起こった<スイカジュース事件>の不可思議さも添えて。ところが、作者からの返信にはその事件に対するひとつの解釈が書かれていて……。
短大に通う駒子と作家の間にこれ以降とりかわされる手紙を主軸にして、<七つ>の短編が連作で語られる。それぞれの短編はもちろん「ななつのこ」で描かれる童話とも密接に関係してくるのだが……。
誤解を恐れずに言えば、この一編目である「スイカジュースの涙」を読了して、ぼくは何ともいやな気分になった。主人公の短大生がこのあとどうしたのかにぼくは興味があるのだがなあ。"電悩痴帯"のふーまーさんに「わんだらさんの好きなタイプの作品」と言われていたのだけれど、まずはここでめげそうになってしまった。ぼくとしては、そういう<解決編>を<手紙>で伝えてくるだけの<作家>に不信感を持ってしまったのだ。このアームチェア・デテクティブならぬペンパル・デテクティブの表情が見えない点によりなおその感情は増幅された。この話の仕掛けが二編目以降に位置していたなら、もっと素直に楽しめたのに……。惜しい。
そう、惜しいと感じるほど二編目以降はとてもよい。とりわけ三編目の「一枚の写真」六編目の「白いタンポポ」なんかはたいへんに好みである。特に後者はよい。これほどにいろいろな要素をこの長さによくもバランスよく配置してあるものだとひたすらに感心してしまう。特に白秋の歌に関する解釈の部分、これは作者のオリジナルだろうか?思わず巻末の参考文献のところをメモにとってしまった。
この連作の結末のつけかただと、続編はないのでしょうね?なにしろ作中での最大の謎が解決されてしまっているわけですから。(1999/09/10)

『GOD 異形コレクション』(井上雅彦 編)

異形コレクション第12弾。テーマは神。この作品集を読むと、やはり神というものは人類に対しけっして慈悲深くはないのではないか、という不安におそわれます。
恩田陸の「冷凍みかん」、運命などというのはきっとこうした気まぐれによって残酷なまでに支配されているのでしょうね、使われているアイテムが冷凍みかんなのが心憎いまでにすばらしいです。横田順彌の「遊神女」は押川春浪回想録の一編、神々のうちもっとも気まぐれなのはやはり女神なのでしょうか?竹本健治の「白の果ての扉」、神界に至る方法論は古今さまざまに模索されてきましたが、これはまた何とも言えません、こういう発想ってどこから出てくるのでしょうね。大場惑の「大黒を探せ!」は異彩を放つ探偵譚、コミカルさと怖さが奇妙に同居した佳編。田中啓文の「怪獣ジウス」は読了してから眩暈におそわれました、あいかわらずのグロさはもちろんとして、この結末の一文は……。田中哲弥の「初恋」、このテーマもさまざまな作家のさまざまな作品をこれまでに読んできましたが、ここまで物悲しいのは初めてですね、秀逸。(1999/08/29)

『私のかけらを、見つけて』(ジョイ・フィールディング) 感想

うーむ、だんだんと崩れていく平凡であるべき日常。噛み合わない夫との会話、次第に反抗的になっていく娘たち、老いてぼけてきたらしい母親、四十代の女性セラピストの周囲で起こりはじめる不協和音。そのうえ、異父妹が、新聞に掲載された写真をみて十三人の女性を殺した容疑をかけられている男との結婚を宣言する。
ごくふつうに見えている日常が、あるきっかけで違った顔を見せ始めるというのは前三作にも通じるところ。どうして妹が連続殺人犯に心ひかれるのかというのが今回のポイントでしょうね。前作からけっこう間が空いているけれど、四作まとめて読み返し作者の狙っているところを改めて考えてみるのもよいか。(1999/08/21)

『剣客商売8 狂乱』(池波正太郎) 感想

二編目の「狐雨」というのがこのシリーズにして初めてのオカルトである。今後もこういう話が混じっているのだろうか?だとしたらますます楽しみなことである。この編の登場人物又左衛門のその後というのはぜひに読んでみたいものだ。書かれているといいなあ。
それと「仁三郎の顔」というのが味わい深い。明と暗ふたつの顔を持つ男と大治郎の不可思議な関わり合い……。このあといったいどうなったのか、というのは読者が頭の中に思い描けということですね。うーむ、みごとな結末というか……。(1999/08/21)

『ミネルヴァのふくろうは日暮れて飛び立つ』 (ジョナサン・ラヴ) 感想

めずらしく読むのに時間がかかってしまった。マキャヴェッリを超える政治支配マニュアル「至上権論」を巡って渦巻く陰謀に立ち向かう政治学者と米国務省の女性諜報員の物語。うーむ、なんだか乗れなかったのはぼくにそういった政治向きの知識が不足しているというか、ないからなんだろうな。この政治支配マニュアルの恐ろしさというのをなかなか実感できなかったのですよ。どうして、世界制覇を狙う謎の組織にとってこのマニュアルが政治学者に渡るのがまずいのかも、物語半ばを過ぎて作中で説明されてやっとわかったというていたらく。巻末には作中で言及されるこの架空の政治支配論を全文掲載してしまうという付録がついています。(1999/08/21)

『グイン・サーガ67 風の挽歌』(栗本薫) 感想

グイン本編復帰。いやあ長かったですね。これにて物語もひとくぎり。何と1巻で語られたきりになっていたエピソードがやっと実を結ぶなどというおまけつき。ううむ、そして場所的にはノスフェラスにほど近い、あのグインが出現したルードの森へと帰ってきたわけです。しかしながら、1巻から物語内部の時間を数えてみるならば、そんなに長きを経ているわけでもありません。何と短期間に<ケイロニアの豹頭王>、<パロ王レムス>、<ゴーラの僭王イシュトヴァーン>が揃ったものでしょう。これから先はついにクリスタル公叛乱?それともグイン戴冠?いずれにせよ、目が離せません。(1999/08/15)

『人事部長極秘ファイル』(かんべむさし) 感想

かんべむさしの企業もの!?と一瞬思ったのだが、そういえば著者には『課長の厄年』とかもあったなあと考える。人事部の部長となった田島が先代の部長から受け継いだ極秘のファイルの内容について連作短編の形式で示してある。
概して思ったのは、これだけ社員のことを見ていてくれる会社ばかりであるなら、サラリーマンというのも楽な稼業になるんだけどなあ、ということである。ふつうは人事の書類などというのは通り一辺倒のもので、社員の側からしてみると書いてほしくないことだけは書いてあるという……(笑)組織なんて大きくなればなるほど、妙な人材が集まっているのも道理で、けっきょくそれを生かすも殺すも上に立つ者の見識と度量にかかっているというものだね。帯の惹句に「会社は、あなたをどう見ているか?」なんて書いてあるけど、「会社は社員をどう見るとよいか」のほうが内容には即しているかもしれないぞ。(1999/08/15)

『剣客商売7 隠れ蓑』(池波正太郎) 感想

めずらしくドタバタの感がある「徳どん、逃げろ」が面白い。この話の結末は一読しただけでは意味がとれなかったのだが、繰り返して読んで納得。うーむ、ぼくもやはり若輩か(笑)。そういえば、ここまでのシリーズ中でもたびたびそうしたことは語られていたのだっけ。不可思議な旅の托鉢僧と老武士について語られる表題作「隠れ蓑」は最後でふたりの正体にあっといわせられるのだが、その謎解きが何とも切ない。このようなことはお江戸の昔ならではの謎ですね。(1999/08/15)

『剣客商売6 新妻』(池波正太郎) 感想

「品川お匙屋敷」の一編において拉致された三冬を無事に保護した大治郎は、三冬の父、老中田沼意次に娘を嫁にもらってほしいと頼まれる。と、裏表紙のあらすじ紹介に書いてあるし、ほとんど予定調和なんだから、ネタばれではなかろう。めでたしめでたし。
しかし、裏表紙にそう掲載されていて、表題作が「新妻」ならば、ふたりが結婚するのはその一編だと誰でも思うじゃないか……。その点はやられたというか何というか。まあ、それは別として表題作の「新妻」は別の意味で味わい深い話。やはりこれも明暗の対比というか幸不幸の対比で成り立つ話ですよね。
ふたりの奇妙な新婚生活の一端が読み取れる「川越中納言」の冒頭は、いやもう勝手にやってくれというか(笑)。このシリーズの癖なのか、冒頭が和やかであればあるほど、続く事件が陰惨なのがやりきれないけれどねえ。ただ、この一編の結末には救われた思いがしますね。(1999/08/15)

『剣客商売5 白い鬼』(池波正太郎) 感想

「雨避け小兵衛」の出だしに思わずにやりとする。飄々とした小兵衛だが、家庭人としては四十も年下のおはるにいいようにあしらわれている、そういうのもまたいいなあという書き方なのである。これに続いて起きる事件のやりきれなさとはじつにうまい対比である。同じような道を歩いてはいても、人というやつの運命はどこでどのようになるやもしれない。この編の末尾で小兵衛が噛みしめる思いは……。それにしても、おはるはけっきょくのところ小兵衛を「先生」と呼んでいるのだね。
続く「三冬の縁談」、めずらしく大治郎の右往左往さる様が面白い。このような筋で解決しなかったとしたら、大治郎がどのように行動しただろうかと意地悪く考えてしまうのだが、どうだろう?三冬にふさわしい男が縁談の相手であれば黙って身を引いたんだろうか?まあ、それでは物語にならないけれど……。(1999/08/15)

『剣客商売4 天魔』(池波正太郎) 感想

このシリーズの人間関係でもうひとつ不可思議なのが、小兵衛の後妻であるおはると大治郎の関係かもしれない。もと秋山家の下女であったおはるは、今や老夫小兵衛と絶妙のコンビネーションを見せるのだが、大治郎が実際のところ義母をどう思っているのかは、ここに至るまで描写されなかったような気がする。それが、言葉ではないまでも態度に表れるのが「箱根細工」か?これは大治郎が旅先で母上のみやげにと買い求めるものだが、箱根細工の裁縫箱というところがなんとも微妙でよい。寄木細工のように、人生というやつもいろいろと微妙な要素で成り立っていることを象徴するかのようだ。それがちょっと狂うと、この話に出てくる男のようになるのだろう。まことに、ままならないものであるにちがいない。(1999/08/08)

『剣客商売3 陽炎の男』(池波正太郎) 感想

物語の軸のひとつに三冬の心境の変化というものがある。父である意次に対する姿勢もそうであるが、小兵衛に対するほのかなあこがれが、やがて恋の心になってその息子である大治郎のほうに向いていく過程が秀逸に描かれている。六十余にして自分の息子より若い後妻を持つ小兵衛とちがい、この大治郎、けっこうな朴念仁である(笑)。対する三冬は男装の武芸者なのだから、直接的にその恋の展開するはずもない……。表題作は三冬の心が大治郎に傾斜していくきっかけを見事に描いていると思う。理詰めでなく、むしろ生々しい女性を描いているのに、そこのところが男性であるぼくにもすっと理解することができるのだから……。(1999/08/08)

『剣客商売2 辻斬り』(池波正太郎) 感想

このシリーズを読んでいて思うことのひとつに老中である田沼意次の政治のことがある。小学校の歴史では今でもあの「もとの田沼の……」という川柳を教えているのだろうか?政治などというのは、この作品中にも何度も触れられているように綺麗事だけではすまない部分も多々あるのだろう。作中の意次の政治に対する姿勢とか、あるいは剣客であることを「商売」とする小兵衛のやりかたなどを読んでいると、うなってしまうのである。なるほど、そういうやりかたがあるよなあ、という感じである。しかし、これ、なかなかぼくのような若僧には承服できかねる部分もあるのだけれどね。
佐々木三冬の心がじょじょにほぐれていくように、しかしいつの間にかぼくも作者のペースにはまってしまっていて、思わずにやついてしまうこと、二度や三度ではない。やはり、途中で読むのをやめるのは難しいようだ。(1999/08/08)

『剣客商売』 (池波正太郎) 感想

老剣客の秋山小兵衛と息子の大治郎の活躍を描く池波正太郎の代表的作品。池波作品では『仕掛人・藤枝梅安』が既読なのだが、それに負けず劣らず面白い。じつは、このシリーズはもっと年をとってから読むためにおいておく予定だったのだが、魔がさしたのかふらふらと買いこんでしまった。梅安のときもそうだったのだが、一冊読めばたちまち続きが知りたくなるだろうという予想は見事に的中。これでまた老後(?)にとっておく予定のものをひとつなくしてしまったではないか(笑)。
第1巻では老中田沼意次の妾腹の娘である佐々木三冬の登場なる「女武芸者」を皮切りに、意次の暗殺がはかられる一件を描いた「御老中暗殺」など。(1999/08/08)

『妖怪小説 百鬼夜行-陰』(京極夏彦) 感想

『姑獲鳥の夏』から『塗仏の宴』までの影のエピソードというか、登場人物たちをまたちがった角度から描いた短編集。シリーズ既読であることを前提に書かれている作品も多いのだが、独立したエピソードとして楽しめるかどうかというと、そこは客観的には判断できない。なぜなら、ぼくはシリーズ当初から読んでいるわけですからね。
イメージ゙的にいちばんぼくが怖いのは冒頭の「小袖の手」です。箪笥にしまった着物の袖がふっともちあがり、そこから手が……。箪笥というのはなんとも不可思議な空間のような気がするのですよ。あと「毛倡妓」というのも怖い。その時はなんでもなかったものを、ふと、あれはいったい何だったのだろうと思い返す恐怖。このテーマで書かれた話はけっこう数多いと思うのですが、これもその中にあって秀逸。(1999/08/08)

『月光魔術團2 ウルフガイDNA 1 仮面騎士團』(平井和正) 感想

ついに復活の『月光魔術團』、1年半ぶりのお目見えです。第一部のほうも電撃文庫で文庫化がはじまったようなので、とりあえずはほっとしました。そういえば、集英社文庫からは『幻魔大戦』の決定版の刊行が開始されたようで……。うーん、中途になってるノベルズの『地球樹の女神』はどうなるのでしょう?
さて、物語のほうは、第1部を受けて鷹垣人美を中心に動いていきます。神話人種のDNAがテーマであることをタイトルに打ち出してきたわけですから、今後はそのような方向に進むのでしょうね。やはり、この物語は『ウルフガイ-犬神明』の未来世界なのでしょうか?それともあるいは・・・…。いずれにせよ、『ウルフガイ』の不死鳥作戦のモチーフの一部なりが影響してくるとは思うのですが。『犬神明』のラストがかなりヘビーだっただけに、それとはちがったものを期待したいです。(1999/07/18)

『忍び寄る牙』(ロバート・B・パーカー) 感想

<警察署長ジェッシー・ストーン>第二弾。前作でパラダイスの警察署長の地位を固めたジェッシーは、生活も安定し深酒の悪癖も絶っている。別れた妻ジェンとの関係も良好である。この物語のヒロインはやっぱり彼女だったんですね。
主人公はスペンサーほどストイックではないというか、より生身の人間に近い感じ。なんとなくスペンサーの性格は息が詰まるようなところもあるのだけれど、そういう点ではジェッシーはくだけておりますね。これもまた、男の生き方のようなものを前面に出したシリーズになっていくようで、楽しみではあります。ジェッシーとジェンの関係っていうのはスペンサーとスーザンよりもけっこう屈折しているので、ちょっと読んでいてつらい部分はありますが・・・…。(1999/07/18)

『ゆび』 (柴田よしき) 感想

東京に突然あらわれた不可解な「指」。それらはまるで独立した生き物のように人々を不幸へと誘います。人々のためらいを断ち切るかのように押してはいけないボタンを押すことで……。「指」の行動?がだんだんとエスカレートしていくところは、ホラーの王道というか恐怖感をいやがうえにも高めてくれます。ただ、最後の解決方法のところが、ちょっとぼくにはなじみませんでした。理詰めにすぎるというか……。まあ、これもホラーのパターンですし、ラスト何ページかもよくあるやつですよね。総じては楽しむことができました。(1999/07/18)

『転生』 (貫井徳郎) 感想

心臓移植を受けた主人公は、食べ物の好みが変化し、知らないはずのことを知っているように感じ、そして奇妙な夢を見はじめる。自分に心臓を提供してくれたドナーの特性がなんらかの原因によってレシピエントである自分に受け継がれたのではないかと疑った彼は、夢をたよりにドナーと思われる女性をさがしはじめるが……。
心臓移植による記憶転移というのは実際に存在する現象らしい。そういえば以前にTVでそのような番組を見た記憶がある。脳死体からの臓器移植というものが話題になっている昨今、これは読んでおくべき物語だろう。もちろん、問題は記憶転移にあるのではないし、主人公が探しあてたドナーが誰なのかということも、じつは謎の一部にすぎない。その道筋を追っていくことで、主人公と読者が直面する臓器移植の持つ可能性と問題点の両面こそが最大のミステリなのだ。この物語で語られるのは、脳死体からの臓器移植に対する賛否の両極の意見なのかもしれない。(1999/07/18)

『海がきこえる2アイがあるから』 (氷室冴子) 感想

『海がきこえる』の続編。完結編かというと、そのような気もするしそうではないような気もする。とりあえず、ふたりのその後が気になったので続けて購入してみたのだが、何かが進展したような気もするし、やっぱりふたりとも同じような場所で迷ってばかりのような気もする。高知での高校生活の回想シーンがほとんどを占めていた前作に比べると、こちらは話がリアルタイムで進んで行く。ふたりではじめて迎える東京の冬までのお話だ。でも、ぼく自身の気持ちとしてはやはり回想モードで読んでしまいますね。ふたりの大学生活を追いながら、自分のそれを思い出してみるもよし。 (1999/07/18)

2008/10/07

緒形拳氏の訃報

緒形拳さんといえば、『必殺仕掛人『の藤枝梅安。
あと印象に残っているのが、『迷宮課刑事おみやさん』の鳥居勘三郎。
好きな俳優さんでした。
ご冥福をお祈り申し上げます。

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