『狂骨の夢-文庫版』 (京極夏彦) 感想
読了済みの作品を文庫で読みなおすなどというのは異例のことである。しかし、400枚加筆ということは、ふつうに言うところの長編なみの分量が追加されているわけで、それだけの価値もあるのかも知れない。この作品、ノベルズ版ではシリーズとしては薄いほうだったのだが……。
妙な言い方だが、この段階では作家関口がまだ健在であり、ぼくとしてはシリーズのうちここまでがわりと感情移入しやすいのである。とりわけ、精神分析をテーマにしているあたりがとても好みである。それは、最近濫発されているサイコサスペンスのほとんどが同工異曲であり、読んでみるとうんざりするのとは比べものにならない。この物語に登場する人々のその後をすでに読み知っていてもなお、いや知っているからこそ深い感慨があるというのは、それだけ物語が深いということである。
佳作の条件は再読に耐えることだとあちこちに言いもし、書きもしているが、ミステリの多くはその性質上これを満たさない。しかし、やはりこうした作品にこそ数多く出会いたいものである。(2000.10.15)
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