『黒塚』 (夢枕獏) 感想
不死者の物語というのには、多かれ少なかれ悲哀と淫靡の色が必須なのだと心のどこかで信じていた。『吸血鬼ドラキュラ』、『ポーの一族』、『夜明けのバンパイア』。質的な差さえあれ、それらはいずれも奇妙な美によって成り立つ物語である。
さて、それではこの『黒塚』はどうか?ぼくには何故かその不死者の物語に必須だと思っていた悲哀の色が薄いと感じられた。もちろん、永遠を生きる女との約束という通常の時間を超えるテーマがあることでこれもまた不死者の物語にはちがいないのだが……。そして、物語終焉近くで明かされる血の由来こそ、その悲哀のおおもとにはちがいないのだが……。それでも薄いと感じるのはこの物語の主人公であるクロウが迷ってはいないからであろう。疑問には思えど迷いはしないと言ったほうがよいか?約束こそがすべてだと信じる強さのもとでは、永遠に近い時の流れなど何するほどのものがないことなのか?人が手にするには、永遠とは長すぎる時間だと思うのだが……。アクション的要素の濃い後半よりも、あの「頭の中の湿った土」にも通じそうな二幕あたりがぼくとしては好みである。 (2000.10.15)
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