『月の裏側』 (恩田陸) 感想
月の裏側を見ることはできない。なぜなら、地球の自転する周期と月が地球を巡る周期が同じだから、だっただろうか?何で読んだのだったか思い出すことができない。とにかく、地球上にいる限り月の裏側を意識することはない。それは単なる偶然なのだろうか?ふと、何者かの底知れぬ悪意がそのようにしたのではないかという疑念にかられることもある。だが、知らなければ疑惑をおぼえることもないのではないか?そして、人間には知らなくてもよいこともあるのかもしれない。
九州の水郷都市箭納蔵を舞台にしたこの物語、土台になっているのは作中にも出てくるフィニイの『盗まれた街』ということなのだろうけれど、読んでいる最中ぼくの頭にあったのはむしろ、あの啄木の謎に迫った山田正紀の『幻象機械』だった。日本人というのは、ほんとうに妙な種族だ。多数に属することで安心するのはなぜか?多数とはその場合どのような定義か?何かに気づいた人々が、文学作品として発するメッセージさえ、ぼくたちのなかでは歪めて受け取られているのか?淡々とした展開のなかに潜むものこそが、この物語の恐怖である。
考えてみてほしい。他人とちがったところがないことに、もしもあなたがほっとしているのであれば、それこそが何かに「盗まれている」証拠ではないのかと?(2000.04.09)
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