『聞き屋与平 江戸夜咄草』 (宇江佐真理) 感想
与平は薬種屋の隠居である。「世の中に自分の話を聞いて貰いたい人間が思わぬほどいる」ことに気づき、店の通用口あたりで客の話をなんでも聞く「聞き屋」をはじめる。聞き料は客の気持ち次第。
吉原に売られそうになっている娘、もとは武家の出だという夜鷹、過去の罪を懺悔する髪結い、語られる話はさまざまである。さまざまであるが、概していい話はない。いい話ではないからこそ、縁もゆかりもない「聞き屋」なるものに語ることで心の重荷を減らそうということか。しかしながら、与平はただただ話を聞くばかりで、例外はあるものの解決の手立てをつけるわけではない。宗教的な救いをもたらすわけでもない。心の内を話すことで救われるものなのか?というのが、要するにこの作品のテーマなのであろう。与平自身が語ることのできぬ秘密を心の内に抱え続けていることが、物語の縦軸となっていることからも、それは明確であるように思われる。
薬種屋の日常風景を織り込みながら、きわめて抑えた感じのいいトーンで物語は進む。そうだ。読んでいる間、まるで与平の店の前でほのかな灯りに照らされているかのような、絶妙な暗さがすばらしいのだ。「聞き屋」があったら行ってみたい。そう思う人も多いのではないのだろうか?
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