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2022/11/29

【読書メモ・感想】『陰陽師-付喪神ノ巻』(夢枕獏) 1997/12/7

陰陽師安部清明と平安貴族源博雅を中心に怪異な事件を追う人気シリーズの第三弾。やはり興味をそそるのは第一巻の冒頭「玄象といふ琵琶鬼のために盗らるること」の後日エピソードとして「ものや思ふと…」が入っていることだろう。これ、シリーズ中ではもっとも好きな話であったので、それこそほんとうにページを舐めるように読んだ。宮中で歌合わせが行われるのだが、その最後に壬生忠見の「恋すてふ我が名はまだき立ちにけりひと知れずこそ想ひ初めしか」と平兼盛 の「忍ぶれど色に出にけり我が恋はものや想ふとひとの問ふまで」が争うのだが、敗れた忠見は悔しさのあまり幽鬼となって宮中をさまよっているというものだ。この執心というのは物を書くような人にはよく判る種類のものである。まさしく「鬼」なのだ。怖く、哀れで、そして儚い。思わずうなってしまった。きっと文章を綴る人間、いや何かを作り出す人間というのは大なり小なりこのような「鬼」を心に棲まわせているに違いない。
他にも、1、2巻からのエピソードの継承が見られて興味深いものがあります。(1997/12/07)


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