【読書メモ・感想】『薬指の標本』(小川洋子) 1997/12/28
そのなんともいえぬなまめかしい題名に魅かれて購入した。サイダー工場に勤めていた主人公の女性は、機械にはさまれて薬指の先を失ってしまう。工場を辞した彼女は「標本室」で働きはじめるのだが、そこでは生物にとどまらず人々の思い出の品が標本にされているというストーリー。少々はまってしまった。文体はまるで違うのだけれど、読んでいる間中、安部公房の『第四間氷期』が思い出されてならなかった。
うすく色のついたガラスの壜に時間を封じ込める標本という作業、それはどこか性的な暗喩を持ちながら生臭い感じがしない。どこまでも無機質だからだ。そして標本技術士が彼女に贈るあまりにも足にぴったりとした靴。これもずいぶんと歪んだ愛情表現のような気がするが、ふたりの行為はどこか透明ですらある。そして、ラストシーンで彼女が選んだ道は必然なのだろう。閉鎖的でありながら、淀むことのない悲しいまでに美しい物語でした。(1997/12/28)
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