【作家】北川歩実

2009/03/15

『金のゆりかご』 (北川歩実) 感想

<金のゆりかご>、それは天才を生み出す早期教育装置である。かつて同じ理論に基づいて天才教育を受けた主人公は、今では平凡な人生を歩んでいるのだが、そこに教育センターより入社の要請が来て・・・・・・。
無気味な物語、といって差し支えないだろう。得てして頭がよいと自分で思い込んでいる人間というのは身勝手なものだと思う。天才であることにそれほどの価値があるのだろうか?他のすべてを犠牲にしてよいほどの?読み進むごとに、どうにもならない嫌悪感が広がっていくのを感じる。どんでん返しに次ぐどんでん返しは北川ミステリのひとつの売りなのであろうが、この物語ではどうにも後味が悪い。とりわけエピローグのそれは、吐き気を催すほどである。人間というのは、自分が正しいと信じているとどこまでも身勝手になっていくものだ。
そういえば、気になることがひとつ。主人公の妻が物語のほんの序盤にしか登場しない。これだけの事件、それも自分自身のアイデンティティを揺るがせられるようなことに巻き込まれてなお、この主人公はひとりでそれを解決しようとしている。これも、ある種の身勝手ではないだろうか?この物語の中では、天才という呪縛から逃れふつうに生きようとしている彼でさえそうであるのだ。誰も救われることはなかったと思ったのはぼくだけであろうか?

2008/11/30

『嗅覚異常』 (北川歩実) 感想

匂いがわかっているはずなのにそれを意識できない。北川氏得意の最先端科学ミステリです。うーむ、これは中編にはどうかな、と思いました。やはり氏の持ち味は重厚にデータを重ねて目眩ましをはるところにあるわけで、ぼくなどはその物語的に解析されたデータの山を嬉々としてだまされるために読んでいるわけです。ちょっとこれでは物足りない、と思われませんか?いつだったか、どの作品かの感想でつめこみすぎるみたいなことを書いたような記憶があるのですが、ここに撤回します。読者なんてのはかくも勝手なものですね(笑)。(2000.11.20)

『猿の証言』 (北川歩実) 感想

人間とサルの境界線とは何なのか?うーむ、なかなかに興味深いテーマであります。この物語の中ではまずはもっと狭義のところからはじめているわけですね。はたして、サルに言語を扱うことができ人間とコミニュケートできるのであれば、その「言葉」は証言として有用であるかどうか?
このような物語に出会って、やはり最初に思うのはあの名作『猿の惑星』だな。あの映画史に残る作品での猿はAPES、つまり類人猿という意味だね。この作品においてもそう。ぼくの年代より上の人であれば、あのオリバー君のこととかも思い出すにちがいない。思えば『猿の惑星』では人間と猿の知性の逆転を描いたのでありました。しかし、そこで定義された知性とは……けっして生物を幸福にしてくれるものではなかったはずです。だから、賢いとか賢くないというのは、生物を区別する境界としてはよくないですね。賢いから偉いのでしょうか?価値があるのでしょうか?それは人間という単なる一生物であるにすぎない者たちの歪んだエゴイズムによる価値観でしかないでしょう?
さて、人間の歪んだ思いが、この物語を暗くそして不安なものにしています。途中どうにもやりきれないシーンが、じつに何度もありました。そして、このラスト!!これは、何というか……。謎はすべて解かれなければいけないものでしょうか?時に真実は人を不幸にするのではないでしょうか? (2000.04.02)

『影の肖像』 (北川歩実) 感想

先端科学技術をモチーフにしためくるめくトリックはいつもながら見事。しかしながら、今回なんというかどんでん返しに次ぐどんでん返しで最後のあたり少々読み疲れてしまったのも事実です。あそこまでやらねばならないもんなんだろうか?今回扱われているクローン技術というやつ、昔からSFではおなじみなんだけれど、現実の問題としてこれが行なわれるとすると、なるほどそういう弊害があるのかという妙な感心の仕方をしてしまった。SFでやるともっとエキセントリックな内容になってしまうものな。この作品で扱われているのは、なんというかもっと地味で、だからこそ怖い。読んでいる最中ぼくの頭の中にあったのは、じつはヴォクトの『スラン』にあったのだと思うこんな台詞「倫理とはけっきょくのところ訓練の問題なのだ」っていうやつなのだけれど……。さて、人類はいったいどこに向かっているのでしょうね?(2000.05.06)

2008/11/16

『模造人格』 (北川歩実) 感想

杏奈には過去の記憶がない。それは交通事故で失ったものだと母親の茜は教えてくれたが……。ある日、茜に置き去りにされたホテルで出会ったのは、杏奈は四年前の猟奇殺人事件で殺されたはずだと言う三人の男だった。
はてさて、この<杏奈>というのは、けっきょくのところいったい誰だったのでしょうかね?次々に登場人物たちから示される可能性とその説明。そのどれもが目の前の事実を証明できているかのようで、なにかが物足りない気がする。二転三転というか、まことにめまぐるしく変化していく事実にとまどいさえおぼえる。物語の結末部で、事実を直接的に説明できる人間はいなくなってしまうわけだが、それがすべてを迷宮へと導いているわけだ。いや、その迷宮は、きっと登場人物それぞれの心の中にこそ存在するのかもしれない。ミステリ風に問いかけるなら、女か虎か?SF者風に問いかけるなら、女か怪物<ベム>か>?ですね。(1999/11/11)

『透明な一日』 (北川歩実) 感想

交通事故で脳に損傷を負い、長い間は新しく記憶を行なうことができない前向性健忘症になった科学者。彼にとっては月日は同じ毎日にすぎなかった……。彼の娘との結婚を許可してもらいに訪問をした主人公だが……。
設定がうまい!!その日は1月7日で、何人かが彼の自宅に集まって話をしようということになっていた。だから、誰が来ても来なくてもおかしくはない。窓は防音になっていて、気温は空調でごまかす……。ううむ、いや現実にこういうことが可能かな、と考え込んでしまいましたね。できたとしても、これでは周囲の人間がノイローゼになりそうです。以前、TVで見た前向性健忘症の症状とは少し違っているようで、なるほどこれなら1日という時間をごまかすことができるのかもしれない。しかし、人間は成長し、または老いていく。魅力的な設定ですね。連続殺人が身近で起こったとしても、彼は記憶していることができない、あるいは彼自身が事件に関与していたとしても……。
驚愕の真相と帯に書いてあるけれど、この場合は嘘偽りのない言葉ですね。読み始めてから読み終えるまでうなりっぱなしでした。(1999/10/17)

2008/09/07

『僕を殺した女』 (北川歩実) 感想

ある朝目覚めてみると、女性になっていた。しかも記憶にある日付よりも5年が経過していた。これはまたスリリングな設定である。これをSFにせずに破綻なく解決してみせるという、久し振りに読み出したらとまらない作品にめぐりあったようだ。
記憶消失ものというのは数あるし、男性が女性になってしまうというのも『転校生』はじめ諸作品あげられるけれど、これをミックスしたところがよい。主人公の混乱した意識の流れの描き方がじつにうまいと思った。何か書くとネタばらしになってしまうのでこれ以上は詳細に触れないが、ラストの1行までノンストップで読むことができることうけあいである。事件の全体像の奇妙さは最近ぼくが読んだミステリ作品のなかでは群を抜いたものだと思う。もっとも、これ単行本は1995年であるから、今さら何を言っているのかとおこられそうでもあるが。(1998/07/26)

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