【作家】西澤保彦

2009/10/20

『黒の貴婦人』 (西澤保彦) 感想

ふと入った古書店で見つけて購入。この文庫本、平成17年初版になっているが出ているのをまったく知りませんでした。それに、うかつなことだけれど、タック・タカチのシリーズは、『依存』で完結したつもりになっていたのです。なんということだ。
「招かれざる死者」と表題作の「黒の貴婦人」は、時間的には『スコッチ・ゲーム』と上記の『依存』の間に位置する作品ですね。とくに「黒の貴婦人」はタカチの人となりがストレートに描かれていて興味深いです。
「スプリット・イメージ または避暑地の出来心」「ジャケットの地図」「夜空の向こう側」では、主人公たちはもう大学を卒業しているのですね。「スプリット・イメージ」では、ボアン先輩がいかに就職したのかがやっとわかったりして面白いです。しかし、とりわけ面白かったのは「ジャケットの地図」。これ、わかるなあ。とてもよくわかる。そして、それに対するタックの立ち位置というか、そういうところが興味深い。女性から見て、タックって物足りなくはないのかな?とか思ったり。

2009/05/10

『黄金色の祈り』 (西澤保彦) 感想

読了直後の自分のメモにはこうある。「なんてイタイ話なんだ」と。だいたいにして、青春物などというのはどこかしらもどかしくて、イタイものである。できうるならばもう二度と触れずにすませてしまおうと思っていた澱のようなドロドロに、予期せずでくわしてしまうからである。もちろん、いい思い出の部分を心地よく刺激してくれる青春物だってあるにはあるのだが、そちらのほうが珍しいのではないか?だいたいにして明朗で健やかな青春などというドラマの謳い文句のようなものがフィクションであることは、通りすぎてきた者にとっては自明すぎるほど自明なことだ。
さて、本作はといえば、その明朗快活さの対極にあるといっていいだろう。周囲の人間の目ばかり気になり、こんなはずじゃないというお決まりの文句をいやになるほど繰り返す主人公は、あの日のオレそのものではないか。読み進みながらだんだんと鬱な気分になってくるのを自覚せざるを得ない。ミステリと銘打ってあるので作中で事件だって起こるのだが、事件なんてどうでもいいやという思いもしてくる。いや、やがてその事件なんてどうでもいいやという思いもこのオレのエゴイズムにすぎないとストーリーは思い知らせてくれるのだが。
これを書いている今、読了から半年ほどは経っている。冷静になって考えてみれば、どうやらかなりの部分で作者ご本人の体験ともいえるものを、ここまでよく、こういったドロドロしたものに作り上げることができるものだ。しかも、読んでいる最中は怖いもの見たさというか、ほぼ無我夢中であった。なんといえばいいのだろうね、こういう物語を。
「本当の自分」なんてものは探してもそうそう見つかるもんじゃないと思うけど、この物語を読むと歪んだ鏡を見てるようなぞっとした思いにとらわれる。きっと他人から見えている本当の自分とやらはこんな感じなんだろう。それを指摘してくれる人がいないのは不幸なのか幸福なのか???

2009/03/15

『スコッチ・ゲーム』 (西澤保彦) 感想

『仔羊たちの聖夜』『依存』の間の作品。意外に早く文庫化されてよかった。これで物語のつながりが見えてくる……と思ったのだけれど、読んでますます混乱したと言ったほうがよいかな。いや、タカチの背景はよくわかったというか、なるほどああいう環境でああいう人間が形成されて、でこういう事情で大学に来たのねというアウトラインは理解した。まあ、そのアウトラインそのものが事件がらみなわけだね。で、これはその事件の物語。しかし、タックとタカチの関係はなんだか妙な感じにぼかして書いてあるような。まあ、物語には不要だってことかな?うーむ。でも、終章でそういう展開にするならば、そこはやっぱり明瞭にしておいたほうがいいんでないかい?と思う。妙に暗示的にするよりはさ。そのほうが、タカチの心理的な傾斜もすんなりと理解できるし、『依存』でもタカチの数々の発言にも得心がいくと思うのだな。
つまり、<以下ネタバレ反転>

下世話で申し訳ないけど、忘年会が29日、ボアン先輩とウサコの出発が30日午後、タカチの予約した飛行機は大晦日の1便、ってことはタックとタカチは30日の夜、ふたりきりでボアン先輩の家でお泊りしたってことですよね。そうは書いてないけど、そうでないとこれ以降、特に『依存』でのタカチの行動に納得がいかないのだよ。
<反転ここまで>

『仔羊たちの聖夜』 (西澤保彦)

シリーズ第3弾。1作ごとに別の出版社の棚を探さねばならないとは、ちょっと参るね・・・・・・。タックたちの出会いが描かれるという点と、事件が長い時間にわたって描かれるというのも異色・・・・・・なんだろうか?まあ、クリスマスイブに連続で起こる転落死事件という特質からしてそうならざるを得ないんだけどね。事件そのものは、なんというか大変に後味の悪い印象を受ける。クリスマスだというだけでも何だかいやな感じ、と思うのはぼくだけなのかな?ともあれ、この作品が後続の2編の方向を定めてもいるということだろう。ふたりにとっては、お互いに大事なものができたということである。それを象徴しているのが、コンビニで購入した、なんでもないありふれた品だというところが、なぜか救いのように感じた。

『麦酒の家の冒険』 (西澤保彦) 感想

シリーズ第2弾。ボアン、タック、タカチ、ウサコの迷い込んだ山荘は、ベッドと冷蔵庫いっぱいのエビスビールだけという不可解な状況。4人はこの状況をさまざまに推理していくが・・・・・・。
けっきょくシリーズ全部読むことに決めたんだけれど、これはまた変わった作品。純粋なパズルだねえ。アームチェア・デテクティブってのは現場に行かずに推理を組むわけだけど、こういうのはなんていうのだろ?状況証拠だけでそこまでいうか?という感じ。作者の目的からして感情とか情緒に訴える部分が一切なくて、徹底しているなあと思う。ただ、その代わりというか、ビールを飲んでばかりというとんでもないシーンが続くもので、途中でぼくも飲みたくなって仕方なかったということ。ふだんあんまりビールを飲まないぼくにしてからがそう感じたのだから、さぞやビール好きにはたまらん作品だと思います。ちなみに、長らく冷蔵庫に死蔵されていた我が家のビールがすべてなくなってしまったのは、この作品のおかげかと(笑)。

『依存』 (西澤保彦) 感想

面白い本は表紙を見ただけでわかるというのがぼくの持論なんだが、これもその一例。書店で平積みになっているを見たとたんにぜひ読みたいという考えにとりつかれてしまった。きっと読書を趣味にしているひとにならこの感じわかっていただけると思うのだが。ところが、帯には<シリーズ最高傑作>の文字。ファンの方々には周知のことだったのだろうけど、これシリーズの今出版されている冊数からすると後半に位置する作品だったのだ。困った。とても困った。というのは、焦って書店内をくまなく探したのだけれど、シリーズ全冊を見つけることができなかったのだ。というか、西澤作品自体の数が少ない。うーむ、どうしてなんだ?しかも、シリーズ1作目を見つけることができなかった。
けっきょく、その『彼女が死んだ夜』を探し出せたのは3週間もたってからで、その間になぜか今度は『依存』のほうが店頭からなくなってしまうという、嘘のような目にあってしまった。第1作にはあんまり乗ることができなかったのだが、こと本に関してはカンを外すことはまずないので、まどろっこしくなっていきなりこれを購入してみたのだが・・・・・・
いや、面白い。タック衝撃の告白で幕を開ける序盤からして、物語に引き込まれる。別れた母、彼女に殺された双子の兄。いきなり、である。なぜに主人公にかかわるそんな重大事件がいきなり出てくるのか?しかも、語り手はウサコなのである。1作目の語り手がタックだったので、シリーズというからにはこれもそうなのだろうと思っていたら、ちがう。そして、タックの過去の物語もさることながら、だんだんとウサコの内面の吐露が思いもしなかった形であらわれだす。こいつらって、こういうキャラクタだったか?とりわけウサコ・・・・・・。このシリーズはこの作品の前後でまったくちがった色合いを備えるようになるのだろうか?印象が変わってないメイン登場人物ってボアン先輩だけだぞ。この感想を書いている現在、ぼくは他のシリーズ作品も何冊か読んでいるのだけれど、この『依存』はシリーズを順に読んできた方にはかなりの衝撃だったのではなかろうか?とても興味深いところだし、せっかくなので全作品読んでみたいと思う。ついては、店頭にない『スコッチ・ゲーム』はぜひ文庫化してもらいたいのだけれど・・・・・・。

『彼女が死んだ夜』 (西澤保彦) 感想

<匠千暁シリーズ>第1弾。どういう事情かは知らないのだが、このシリーズ版元が複数にまたがっている。じつは『依存』という作品を書店で見かけてたいへんに心魅かれたのだが、シリーズ作品ということで、これから読むことにしたのである。
やっとのことで両親にアメリカでのホームステイの許可を取った超箱入り娘のハコちゃん。しかし、帰宅してみると見知らぬ女性の死体が転がっているではないか……。はなから死体の処理を頼まれるというとんでもないシリーズ幕開け。うーむ、こっちはこれがシリーズになっているのを知っているもんだから、どうしてこれで成立するのかと頭をひねることに。まあ、早々にあきらめましたが……。タック、タカチ、ボアン、ウサコというキャラクタ造型はどうも申し訳ないがピンと来なかった。いそうだけどいないよね、というかちょっと極端ではないかと……。しかし、『依存』を読了している今だから言えるのであるが、それこそが大きな伏線になっていたのだろうか?うーむ。最初にどのあたりまで計画されていたのだろう、などと考えて再読してみると、タックこと匠千暁からはかなり<未来>に関する情報が語られていることに気づく。これ、4人にとってのどの時点から振り返った物語なのだろうか?

『異邦人』 (西澤保彦) 感想

23年前に殺された父、その犯人は不明。しかも犯行現場は海浜にもかかわらず、足跡が残されていなかった。犯行日目前になぜかタイムスリップしてしまった主人公は、父を助けることができるか?
この謎解きがミステリファンにはどう評価されるのか興味深いところ。SF読みとして言わせてもらえるのならば、かなり物足りない感じ。雰囲気はいい物語なんだけど、そのあたりどうなんだろ?パラドクスの処理もロマンティックにすぎるのではないだろうかな?いや、ロマンティックにするために、わざわざロジカルな組み立てを押さえ気味にしているのかな?うーむ。
主人公と姉の関わり、あるいは姉とその恋人の少女との関わりというほうに視点を移して読めばかなり楽しめるのだけれどな。少女は姉と同性であるがゆえに何も生み出さない。主人公との間では<時>が邪魔をしてやはりそう。しかしながら、少女こそが時の女神であろうことは確実だと思う。何かを育むのが時の役割であるのならば、主人公を過去に呼んだのは、主人公の姉との愛を成就できなかった少女の思いなのではないだろうか?(2001.11.24)

『夏の夜会』 (西澤保彦) 感想

感想を書いている今、読了より2か月近くが過ぎ去っている。この感想の出だしに一度は「偶然の機会を捉えて小学校の同窓会に集まった人々が」書いたのだが、確認してみるとそうではなかった。主人公たちが集まったのは結婚披露宴なのだ。そのあとのなりゆきが同窓会的だったので、最初から同窓会であったように記憶されていたらしい。これも、作者言うところの「錯誤」なのだろう。
読みながら、いくら三十年前のこととはいえ、人ひとり死んでいる事件についての登場人物たちの記憶がここまで食い違いはしないだろうと思っていたのだが、そうでもないのかもしれない。人はおぼえておきたいことはおぼえているものだが、そうでないことのほうは……。
登場人物たちの記憶を追いかけるたびに二転三転する事件の真相や、これほどの事件をなかなか思い出せないということも怖いのだが、鍵をにぎる女教師がいつまでたっても登場しないことがなんとも居心地悪くそして怖い。この事件、ある意味では記憶の中にのみ存在するものだから、あえてそうしたのだろうが……。
忘れたい記憶などというのは、きっと亡霊のようなものにちがいない。それは記憶の背後に色褪せた翳りのようにひっそりとたたずんでいるのだ。ぼくの記憶は果たして正しいであろうか?今、ぼくは古いアルバムをめくってみる勇気を持てずにいる。(2001.11.24)

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