【作家】瀬名秀明

2009/05/10

『八月の博物館』 (瀬名秀明) 感想

ふたつ断っておかねばなるまい。まず、ぼくは氏の出世作である『パラサイト・イブ』も『BRAIN VALLEY』も現時点では未読であるということ。そしてもうひとつは、このページの読者であるならばよくご存知のことであるが、ぼくも少々<書く>人間であるということである。前者についていえば、もし氏の代表的とされる作風とこの物語の間に何らかの隔たりがあるのだとしても、感知しえないということである。後者について言えば、この物語が<物語を書くこと>あるいは<物語を読むこと>をテーマにしている以上、虚心ではいられないということだ。
さて、その上であえて言おう。すばらしい。どうすばらしいというのか?ぼくはこのHPを本来は物語を書くためにはじめたのだが思うにまかせず、掌編を書くことも1997年以降中断してしまっていた。その怠け者に、今さらながらに新作を書く気力を与えてしまったほどである。
物語を綴ることに意味を見出そうとする作家、エジプトにすべてをささげた19世紀の考古学者、そして小学校最後の夏休みをすごす少年。彼らが出会う時間と場所は<八月>、そして<博物館>。これはどちらも特別な時空間を示すキーワードなのだ。この物語は瀬名版の『夏への扉』と言ってよいだろう。あの夏、と言えばだれかが「そうだ、あの夏だね」と頷いてくれるだろうか?たぶん人それぞれに夏の思い出があるのあるのだろうし、その色合いによって返ってくる答えは違うだろう。ぼくのそれは主人公の少年トオルとは違って小学校六年生ではない。もう1~2年は後のことになる。でも、<博物館>に関する特別な経験を除けば、それは何とよく似ていることだろう。長い休みのうち何日かだけ開いていた図書室で回っていた扇風機、投稿するために初めて万年筆で書いた原稿用紙、ワープロなんてまだない時代に学校のガリ版で作った同人誌、原稿用紙を綴じただけのこの世に一冊しかない雑誌。たぶん、物語を綴る者であれば、年齢の前後はあっても皆トオルと同じような経験があるのではないかと思う。啓太の顔をいっしょに同人誌を作った誰かに置き換えれば、そして鷲巣の顔をその特別な夏に作った特別な本を読んでくれた女の子に置き換えてみれば。あの頃の夏、ぼくたちはトオルと同じように<博物館>の幻影を追ってはいなかったか?具体的なガイド役としての美宇こそいなかったが、それでも何か大いなるものに導かれるように、ぼくらは何かを追っていたはずである。
読了してから書くことはやはりすばらしいことだなどと、あらためて当たり前のことを痛感してしまった。物語とは何か、というそれがわからないから書くしかないのである。プロ作家でさえこんなに呻吟しているのである(作中の登場人物である作家には、作者自身が色濃く投影されていることは論を待たないであろう)。ぼくのごときアマチュアが何の労苦もなく物語を書けるはずもないのだ。だから、あの夏を取り戻すために、あるいはあの夏にふたたび追いつくために、(時間がかかろうと)ぼくは何かを書き続けれるにちがいない。(2003/07)

2005/10/28

『ハル』(瀬名秀明) 感想

4167679582ハル
瀬名 秀明
文藝春秋 2005-10-07

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【感想】
『あしたのロボット』を文庫化に際し改題。
ロボットの心とは何かをメインテーマにした連作短編集。
<未来の>じゃなくて<あしたの>なんだなあ、と思う。この物語が書かれた2001-2002年は当然のことながらまだ2003年4月7日は未来に属する日付だった。それいったい何の日だ?と思われる方々もいらっしゃるのだろうか。その日は鉄腕アトムの誕生日なのである。アトムははるかな未来の夢物語なんかじゃなくて、すぐそこまで来ている明日の物語。うん、きっとそういう意味だと思う。
この物語は、そういう半ば架空の明日の世界で、人間とロボットがいかに共存していくかを科学的な視点から見つめているとてもすばらしいものだ。なのに、こんなにも物悲しい感じがするのはどうしてなんだろう?挿入されている「WASTELAND」のせいだろうか?人間が滅び去った世界で<アトム>を探し求めるロボットの少年の物語。切な過ぎます。
どの編もいい感じで、とりわけメインテーマが前面に出ている「アトムの子」はいいのだけれど、それと同じくらいに好きなのが「亜希への扉」です。題名はもちろんハインラインの『夏への扉』のパロディですね。不法投棄された中古ロボットを友として成長する少女とそれを見守るロボットコンサルティングの青年の物語。<これはSF小説ではない><お伽話のようなもの>とわざわざ冒頭に書いてあったりして、そこがまた素敵です。このような友としてのロボットが、いつの日にかぼくたちの目の前に現れるのかもしれません。それが<あした>ではなく、まだしばらくは<未来>の物語になりそうなことが、ぼくには少し残念な気がするのです。

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