【読書メモ・感想】『チ。―地球の運動について―』(魚豊) 2022/11/27
「コペルニクス的転回」という言葉がある。天文学者コペルニクスが、天動説を捨て地動説を唱えるようになったことにちなみ、物事の見方が180度転換した状態を言う。これは、そのコペルニクスに至るまでに「地動説」がどのように受け継がれてきたのかを描いたフィクションである。フィクションなので、歴史的事実とは異なる。出てくる宗教もイニシャル表記だし、登場人物もすべて架空であるとのことだ。
物語を追うごとに主たる登場人物が移り変わり、「地動説」が継承されていくという構成が斬新だと思う。Amazonで巻の紹介を読むと「命を捨てても曲げられない信念があるか? 世界を敵に回しても貫きたい美学はあるか? 」とあり、雰囲気は察してもらえるのではないか?「プロジェクトX」的な熱い物語が好きならば刺さるはずである。しかも「地動説」は「異端」なので命がかかっている。全8巻、とても面白く読めた。
ところで、地動説といえば、コペルニクスとともに口にされるのはガリレオである。もちろん湯川教授のことではなく、そのニックネームの由来になったガリレオ・ガリレイのことだ。昔から子供向けの伝記シリーズにも入っており、「それでも地球は動く」という名言でコペルニクスよりは馴染みなのではないか? 宗教裁判にかけられてもそのように呟いたとされる姿勢が、まあ教育的にはお手本とされるところであり、地動説に関する西洋での異端イメージを日本人に根付かせたのはこの伝記なのでは、と思ったりはする。
あと、伝記ではないが、ガリレオの後半生を題材とした古典といえば、ブレヒトの戯曲『ガリレオの生涯』がまっさきに思い出させる。『チ。―地球の運動について―』を読んで「地動説」のその後についてもう少し知りたいと思ったら、読んでみるといいのではないか。昔、白水社のものを読んだが、とても興味深かった。いつだったかNHKで放映していた舞台も観たんだが、背景で振り子がずっと揺れている演出(?) のもので、当時の(というか、きっと今でも)自分には難解だった。
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