『月光魔術團vol8神話人種になっちまったい』(平井和正)感想

どうやら、奇数月は『月光魔術團』、偶数月は『地球樹の女神』という出版ペースにするような感じですね。毎月平井作品を読めるというのはまことに極楽であります。さて、第8巻に至ってけっこうテーマが見えてきたかな、と感じています。『梁塵秘抄』もついに本文中に出てきましたしね。『ウルフガイ・シリーズ・犬神明』においてウルフが掴み取った生きていくための指標をやっぱりこの作品も受け継いでいるのですよね。世界が同じなのかどうかはわからないけれど、ウルフのテーマはやっぱり「一をもって貫く」なのだとぼくは思うのですが。(1997/5/31)


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『むかし僕が死んだ家』(東野圭吾)感想

昔別れた恋人の記憶を取り戻すために「幻の家」を訪れる、これはきわめてファンタージッシュな設定ですよね。そして『パラレルワールド・ラブストーリー』を読んだ時にも感じたんだけど、このような記憶にまつわる物語は自分というもののアイデンティティを極めて不安にさせるものですね。この不安こそがミステリとしての最大のスパイスになっているのではないでしょうか。それと、変な言い方なんだけど、長編小説を読んだという気はあまりしてなくて、よくできた短編ミステリを読んだような気分なのですよ。決して短いわけではないんだけど。解説で黒川博行さんが触れているように「登場人物は私と沙也加のふたりだけ」の「一幕劇」なのがその原因だと思う。スピーディーで小気味よい秀作です。(1997/5/31)


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『詳註版シャーロック・ホームズ全集1』(コナン・ドイル/ベアリング・グールド解説と註/小池滋監訳) 感想

シャーロキアンってすごい。このような仕事を見るとそう思ってしまう。ホームズ物って事件の発生日時とか背景がけっこういいかげんに書いてあるのは周知のことだと思うけど、これがまたファン諸氏にはたまらん所なのかも。ホームズを実在の人物としてしまって現実にあてはめるというけっこう膨大な作業が、この探偵の登場した時から倦むことなく続けられてきたわけだけれど、それもここに極まったか?何しろ、これはホームズ物を事件の発生順に編集した画期的な試みなのですから。第1巻にはプロローグとしてかなり長い論文を掲載。これがまた読ませる。ホームズはすべて読んだという方もこの第1巻だけは読む価値ありだと思うな。世界でいちばん有名な探偵ホームズ、国会議事堂の所在地番は言えなくても彼の住所ベーカー街221Bなら知っているという方も多いのではありませんかな?(1997/5/31)

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『グイン・サーガ56野望の序曲』(栗本薫) 感想

グイン・サーガ隔月刊計画はどうやら順調に進んでいるようである。このエピソードってイシュトバーンがゴーラ王になるまで続くんだろうか。いったいグインの本編復帰はいつ?ともかく、前巻の感想でも書いたように、イシュトヴァーンがメインで動いている時は、やたらに元気。ほとんど全編を通して戦闘シーンなんだけど、飽きさせないですよね。(1997/5/31)


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『長い長い殺人』(宮部みゆき) 感想

連作短編がひとつの長編を構成している。輪舞形式っていうのか。構成も変わっているけど、もっと変わっているのは各短編の語り手がその主人公の財布であるという点。財布の視点から見た殺人事件っていうのはけっこう面白いぞ。長編としてのつながりよりも、むしろ各短編がとても味があってよかった。特にすばらしかったのは「旧友の財布」です。何だかやりきれない気分になってしまいました。で、小説ながら、この犯人は絶対許せんと思ってしまいました。ぼくにしてはめずらしいことですが。この本はぜひに読むべし。(1997/5/25)


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『家族趣味』(乃南アサ) 感想

奇妙な味の短編集。借金してでも宝石を集めることをやめられない女性の悲劇を描いた「魅惑の輝き」、自分の肉体を鍛えることに取り憑かれた男の話「彫刻する人」など5編。どこにでもいるような人々を主人公にしているだけに怖い。読みはじめた時は、そうだよなこんな人いるよなとか笑っているのですが、読み進むにつれて顔がひきつってくるのが分かる。絶品なのは第3編の「忘れ物」。そこに仕掛けられたトリックもよいし、ストーリーもよい。でも、読了してからちょっと粛然としてしまったです。怖いというよりは悲しい物語ですよね、これって。女性読者諸氏の感想やいかに?(1997/5/25)


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『犯行現場は党政治局 ホーネッカー調書』(ペーター・プシビルスキー/小阪清行・香月恵理・森田浩子・平田常子訳)

急に硬派な本が出てきて驚かれた方もいらっしゃるでしょうが、日記にも書いたようにこれは訳者のひとりでいらっしゃるぼくの先輩からいただいた本です。内容は、もと東ドイツの共産党独裁体制の腐敗について、社会主義統一党書記長ホーネッカーを中心に暴いていくというものです。これを読んで思うのは、やっぱりマルクス・レーニン主義は人間の自然の感情を撓めたものじゃないかなあ、ということです。機械的にすぎるといった方がいいのか。何事も程度問題なんじゃなかろうか。だいたいにして、利潤を追求することを目的とはしない社会システムを取り入れた国家で、こんな不平等や不正があるようでは暗澹とした気分にならざるを得ませんね。かといってコンピュータに政治をさせるわけにもいかないし。『エレホン』みたいになったら洒落になりませんものね。(1997/5/25)

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『石と笛1』(ハンス・ベンマン) 感想

前から欲しい欲しいと思っていたんだけど、ハードカヴァー版の1巻が見つからずそのままになっていたもの。このたびめでたく全巻文庫化の運びとなりました。やれ嬉しいな。それにしても文庫本が900円もするなんて....
まあ、それはさておき、現代ドイツ・ファンタジーの傑作です、本書は。エンデの『モモ』とか好きな方にはぜひおすすめ。主人公「聞き耳」が不思議な力を持つ石を入手し、その謎を求めて旅に出るんだけど、かなりつらい場面なんかもあって辛口。かなり変わった冒険物語であり、途中で知り合った人々から聞かされる形で挿入される話中話も謎解きのヒントになっている。この第一部の完結部分などというのはじつに落涙物です。思春期の青少年にぜひぜひ読んでほしいなあ。『モモ』というより『果てしない物語』の方にテイストは似ているかな。とにかくすばらしい物語です。(1997/5/11)

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『バスが来ない』(清水義範)感想

徳間書店から出版されている清水義範の本はすべてレベルが高いなあ。かなり笑える。特にぼくが気に入ったのは「マイルド・ライト・スペシャル」。気に入りの銘柄の煙草が自動販売機に入っていないっていう話なんだけど、みなさん経験あり?ぼくが日常会社で吸っているのは“ピース・ミディアム”なんだけど、まさにこの状態。あれだけ宣伝しておいて、今はキオスクにさえ置いてない。うーん、この話のモデルは“ピース・ミディアム”なのか、それとも“マイルド・セブンFK”か。あと、興味深いのは「ねぶこもち艶笑譚」。清水義範にしてはめずらしく下ネタ風でもあることもだけど、これを読むとどうしても半村良の民話風の話を思いださずにはいられない。「庄内民話考」とか「能登怪異譚」とかね。やっぱりこれは師匠半村良のパスティーシュなのかなあ。初刊本あとがきも笑ってしまったぞ。"「きぼこおたく」は幻妙で客体化された物語である"んだそうだ。(2007/5/11)

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