『グイン・サーガ外伝10幽霊島の戦士』(栗本薫)感想

ひさしぶりの外伝、とはいえこれはたぶん「グイン・サーガ読本」に掲載されていた分ですね。ぼくは買わなかったのですけど。ストーリーとしては、本編44巻「炎のアルセイス」でシルヴィア姫救出のためゾルーディアに向かったグインのその後を描いています。ヒロイック・ファンタジー的色彩がかなり強く出ています。それにしても、シルヴィア姫がグインにもたらす運命ってどういうものなのでしょうね。売国姫シルヴィア(「七人の魔道師」)というのはいったいどういう意味なのか、グインがいったんケイロニアを見捨てるとはどういうことなのか、いまだ謎が謎を呼んでます。この巻では闇の司祭グラチウスが古代帝国カナンについての今までよりちょっとだけ詳しい情報を漏らしていて興味深いです。(1997/6/29)

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『嗤う伊右衛門』(京極夏彦) 感想

題名の通り、京極夏彦版の「四谷怪談」です。どれほど怪奇な世界が展開するのだろうと期待して読みはじめたのですが、これいわゆるふつうの意味の怪談じゃないですよね。むしろ、人間の心に潜む闇について描いた、怪談より怖い物語です。物語冒頭で伊右衛門が蚊帳越しに見ている情景というのがたまらなく怖い。自分の存在が不確かになってしまうかのような、存在論的な怖さなのです。それに、「四谷怪談」というとぼくは鶴屋南北のものしか知らないのですが、京極版のような解釈をしてあるものって他にもあるのでしょうか?奇妙な違和感を感じながら読み進めていくと、たまらなく怖くなっていくのです。いえ、怪奇現象ではなく、人間というものが。人間というのはここまですれ違うことができるものなのでしょうか?あまりにも悲惨な物語展開は、まるで「浅茅ケ宿」のようなラストシーンに至るまで、息をするのも忘れてしまいそうになります。(1997/6/22)

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『神隠し』(藤沢周平) 感想

突然時代ものを読みたくなったのである。で、書店の棚を見渡していたところ目にとまった一冊。「神隠し」というと山岸涼子の短編漫画にそういうのがありましたよね。じつに怖い漫画だったです。まあ、そういうものを期待したわけではないのですが、ミステリ色が多少は濃いかなと思って購入いたしました。で、どうだったかというと、きっとぼくはこれらの短編に描かれる人生の悲哀に納得できるようになるには少々若すぎるのかもしれない、と思いました。どうにもやりきれないようなラストが目立つのですよ。「小鶴」という短編がいちばん気に入ったのですけど、これも何だか暗い結末ですよね。同じような展開の山本周五郎の「あの木戸を通って」(という題だったと思う)なんかの方が救いがあって納得できるです、例えそれが現実的ではなくても。ぼくはまだまだアオイのでしょうか?もう少し時間をおいてから再読してみようかと思います。(1997/6/22)


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『アクアリウム』(篠田節子)感想

遭難したダイビング仲間の遺体の捜索をその恋人から頼まれて、奥多摩の地底湖に潜った主人公は、そこで不思議な生物と遭遇する。どうやらその場所に閉じ込められたまま独自の進化(いや変異、特殊化か)を遂げた哺乳類であるらしい。うーむ、じつに魅力的な設定ですね。サスペンス・ファンタジーと銘打ってありますけど、どうだろう。ぼくはハードボイルドだと思って楽しんだんだけど。「地球にやさしい」というぼくはあまり好きじゃない文句があるんだけど、この物語を読んでいると、いったい自然て何なんだろうと考えさせられてしまう。人間のあがきなんてじつにちっぽけなものにすぎないですよね。「地球にやさしい」ってのは、どうにも人間中心的なんだな。人間だって地球の一部なんだから、自然と人間を対極のところに位置づけるのはどうかと思う。こういうすばらしい物語を読んで、自分というものの位置を改めて考えてみるのはよいことではないでしょうか。(1997/6/22)

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『スナーク狩り』(宮部みゆき)感想

宮部みゆきってこのような作品も書くんだな、とちょっと意外な気がしました。まず、設定がチェイスものであるっていうこと。もうひとつは銃が報復の象徴として選ばれていることです。いつもよりアクション的要素が強いような気がします(もっともこれは1992年の作品ですが)。それにしても、この物語の登場人物たちってみんな何か哀しいですよね。ほんの少しだけ何かが足りない。ふつうの人ならふつうに持っている何か。それを登場人物たちはいろいろな理由で無くしてしまっているのですね。佐倉修治が追いつめたのはきっとその何かです。捕まえることができたのでしょうか?理解することができたのでしょうか?何だかちょっと後味の悪い幕切れだったと思います。(1997/6/15)

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『リオノーラの肖像』(ロバート・ゴダード) 感想

第1次世界大戦を背景に、とある貴族の館を舞台にした、複雑怪奇な人間模様の物語。本の帯にゴシック・ミステリーとあるけどちょっとちがう。70歳になった女主人公が当時を振り返りながら娘に自分の人生を語って聞かせるという趣向で、ふつうに言う意味ではミステリ色はそんなに強くないとぼくは思う。むしろ、この人間関係、いや息が詰まってしまいそうなくらいに複雑ですね。殺人事件の犯人なんてどうでもよくて、人間関係の縦糸横糸をどのように解きほぐすかですね。途中でだいたいの筋立てが見えてしまったんだけど、それでも面白い。8月には新刊『碧空の彼方へ』(仮題)が出版されるそうなので、今から楽しみです。(1997/6/15)

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『地下鉄(メトロ)に乗って』(浅田次郎) 感想

時の流れにかかわる物語というのは、せつないものが多い。この作品もそうだ。それは、きっと取り返せる筈のないものを取り返そうとする試みだからなんだろう。地下鉄の駅の階段をあがっていくと、そこにあるのは違う時代の街並み。今なら自殺した兄を助けることができるのではないかと急ぐ主人公。電話をかけるともとの時代につながるというのがいい。主人公は母親にどうしたらよいのかと相談する。このシーンでは時というもの自体について深く考えこんでしまった。「過去はいつでもここにある、手には触れられないだけで」そう言った人は誰だったろう?それにしても、電話というのは何となく時間という概念を超えたところで人と人を結びつけているような気がする。この箇所を読んだとき、福島正美の「過去への電話」というフィニイっぽい短編を思い出してしまった。また、パラドクシカルなラストシーンには思わず目頭が熱くなってしまった。時の流れ、それはきっと人々の心の流れそのものなのでしょう。(1997/6/15)


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『冬のオペラ』(北村薫)感想

一般の調査などは行わずに、ふだんはアルバイトで生計を立てている名探偵という設定。これ自体はけっこう面白いと思うんだけど、収録されているみっつの事件にその名探偵が必要かというとちょっと疑問です。必要ないということを登場人物であるところの巫(かんなぎ)弓彦本人が自覚しているところがなお厄介かも。ミステリとしてはちょっと平凡でしょうか。いや、最初に読んだ<円紫さんとあたし>の印象が強烈だったので、そう感じるのかも。いちばん不満だったのは記録者としての主人公の女の子がこれらの事件から何を得たのかということが明確じゃないことです。(1997/6/15)


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『いざ言問はん都鳥』 (澤木喬) 感想

植物をテーマにしたミステリ、4編の連作短編集でタイトルにはすべて和歌があしらってある。主人公は大学の植物学科で助手を勤めていて、専門は分類学、ヴァイオリンを趣味としてアマチュアのオケに所属しているという設定。テーマになっている植物は何も特別なものではなく、日常でぼくたちも目にしているにちがいないものが多い。一読しての印象はなんだか茫洋とした小説だなあということである。この茫洋としたところが気持ちよい。ただ、日常において何かしら異常な事件が起きてそれを解決していく過程に、何となく納得いかないところもある。ほんとうにそういうことになるのかな?と疑問に思ってしまうのだ。飛躍しすぎる部分があって、しばしばついていけなくなりもした。理系大学の生活風景スケッチとして読んで良。浮世離れしている感はあるけれど、不思議に気持ちよいのです。(1997/6/8)

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