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『嗤う伊右衛門』(京極夏彦) 感想

題名の通り、京極夏彦版の「四谷怪談」です。どれほど怪奇な世界が展開するのだろうと期待して読みはじめたのですが、これいわゆるふつうの意味の怪談じゃないですよね。むしろ、人間の心に潜む闇について描いた、怪談より怖い物語です。物語冒頭で伊右衛門が蚊帳越しに見ている情景というのがたまらなく怖い。自分の存在が不確かになってしまうかのような、存在論的な怖さなのです。それに、「四谷怪談」というとぼくは鶴屋南北のものしか知らないのですが、京極版のような解釈をしてあるものって他にもあるのでしょうか?奇妙な違和感を感じながら読み進めていくと、たまらなく怖くなっていくのです。いえ、怪奇現象ではなく、人間というものが。人間というのはここまですれ違うことができるものなのでしょうか?あまりにも悲惨な物語展開は、まるで「浅茅ケ宿」のようなラストシーンに至るまで、息をするのも忘れてしまいそうになります。(1997/6/22)

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