『地下鉄(メトロ)に乗って』(浅田次郎) 感想
時の流れにかかわる物語というのは、せつないものが多い。この作品もそうだ。それは、きっと取り返せる筈のないものを取り返そうとする試みだからなんだろう。地下鉄の駅の階段をあがっていくと、そこにあるのは違う時代の街並み。今なら自殺した兄を助けることができるのではないかと急ぐ主人公。電話をかけるともとの時代につながるというのがいい。主人公は母親にどうしたらよいのかと相談する。このシーンでは時というもの自体について深く考えこんでしまった。「過去はいつでもここにある、手には触れられないだけで」そう言った人は誰だったろう?それにしても、電話というのは何となく時間という概念を超えたところで人と人を結びつけているような気がする。この箇所を読んだとき、福島正美の「過去への電話」というフィニイっぽい短編を思い出してしまった。また、パラドクシカルなラストシーンには思わず目頭が熱くなってしまった。時の流れ、それはきっと人々の心の流れそのものなのでしょう。(1997/6/15)
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