『冬のオペラ』(北村薫)感想

一般の調査などは行わずに、ふだんはアルバイトで生計を立てている名探偵という設定。これ自体はけっこう面白いと思うんだけど、収録されているみっつの事件にその名探偵が必要かというとちょっと疑問です。必要ないということを登場人物であるところの巫(かんなぎ)弓彦本人が自覚しているところがなお厄介かも。ミステリとしてはちょっと平凡でしょうか。いや、最初に読んだ<円紫さんとあたし>の印象が強烈だったので、そう感じるのかも。いちばん不満だったのは記録者としての主人公の女の子がこれらの事件から何を得たのかということが明確じゃないことです。(1997/6/15)


| | コメント (0) | トラックバック (0)

秋の花』(北村薫) 感想

人が死なずともミステリは成立する。このことを作者は「空飛ぶ馬」「夜の蝉」で証明した。にもかかわらず、第3作では人が死ぬ。それも高校生の女の子が。長編ミステリは死人がいなくては成立しないのか?いやそんなことはあるまい。何か暗然とした思いでこの作品を読んだのだが、読んでいくうちに疑問は少しずつ氷解していった。この物語で人が死ぬのは必然である、運命といってもいいだろう。この物語のテーマがそれを要求するのである。大学生の主人公にとっては重過ぎるかもしれないそれを。もしかすると、この物語がミステリとしてはいちばん弱いかもしれないが、扱っているテーマの重さは前二作の何倍にもなるだろう。ぼくは今「六の宮の姫君」を読もうかどうか迷っている。(1997.4.5)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

『夜の蝉』(北村薫)感想

「空飛ぶ馬」が面白かったので、続けて買ってきた「円紫さんと私」シリーズの第2弾である。期待は裏切られずこれも絶品。第2集の特徴は、主人公自身の私生活にかかわるような物語が前面によりはっきり出てきていることだろう。第1話「朧夜の底」では友人の正ちゃんとの関わりが、第2話「六月の花嫁」ではもうひとりの友人江美ちゃんとの関わりが描かれる。そして、これらは第3話「夜の蝉」で描かれる主人公と姉との微妙な関係を語る上での物語的伏線になってくるわけである。より、主人公の内面へ。そして、二十歳の主人公が「女の子」ではなく「大人の女性」の顔を垣間見せるほんの瞬間。それは宝石のような瞬間であるとぼくは思う。(1997.4.5)


| | コメント (0) | トラックバック (0)

『空飛ぶ馬』(北村薫) 感想

これは面白い。今まで読まずにいて損した気分である。作者の文体からして、軽い学園ミステリだろうと勝手に思い込んでいたのである。大失策。ミステリにはちがいないのだが、むしろ日常に潜む不思議を推理するのを旨としており、その題材の選びかたが何ともよい。主人公には女子大生を据えてあり、探偵役の落語家とのコンビネーションが絶妙である。主人公の興味の方向とその行動パターンは、イメージとしての女子大生からかなり逸脱した(よい方向にですよ)もので、好感が持てる。文学的な趣味もいやみなく高尚で、落語を楽しめるというのも実在しているならお友達になりたいくらいである。探偵役が落語家というのも意表を突いているよね。挿入されている落語で知らないものは幸いなかったけれど、これ読者にもかなりの知力を要求しているでしょう。もちろん落語を知らなくても楽しめる書き方だけれど、噺を聞いたことがある方がぜったい楽しめる。第4編の「赤頭巾」がミステリとしては秀逸。物語としては表題作の「空飛ぶ馬」が絶品。(1997.3.29)

| | コメント (0) | トラックバック (0)