『五分後の世界』(村上龍)感想

何と耽美な物語なのだろう。五分の時間がずれている別世界の日本、その世界では第二次世界大戦以降の歴史が大きく違っていた、という設定はSFとしてはかなりありふれたものでしょう。しかしながらそこに詰め込まれた価値観といったら、頭を何発も殴られたようなショックを受けてしまいます。日本国民がすべてゲリラ兵士となって地下に構築した都市で戦いを続けている世界、それは戦争の賛美ではけっしてなく、さりとて反戦のためのアンチテーゼでもない。生きることそのものに目的と達成感のある人生。疑いなく美しいその姿に幻惑されてしまいそうである。
昔、ぼくがまだ少年だった頃、小松左京の「地には平和を」を読んでそこに秘められた情念に頭がくらくらとするようなショックを受けたことがあったけれど、それ以来の衝撃ですね。今、ぼくたちが生きている人生にはほんとうの意味での価値とか真実があるのでしょうか?この物語のラストの1行に込められた作者のメッセージは、ぼくたちに何を伝えようとしているのでしょう?おまえの人生にはこのくらいの充実感があるのか?ぼくにはそう聞えてなりません。(1997.4.27)


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